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あ、この人、このままだと死んじゃう。
そんなことを感じたのは、22年間生きてきて初めてのことだったと思う。
希死念慮は世の人の中で普遍的に存在するものだと勘違いしていたけど、ここ数年で、そうでもないことを悟りつつあった。
別にみんな、死にたいなんて考えないらしい。まことに信じられませんが...。
大きな絶望の渦中にいるわけでもなかったその人の、瞳の中に宿らない光のことや、言葉の端々に感じられる救いようのない諦念を前に、わたしはただ黙って立ち尽くすことしかできなかった。
タイムリミットがすぐそこに迫った、第一志望の大学入試、苦手分野の選択式の難問のように、焦る気持ちを「落ち着け落ち着け落ち着け」と唱えながら静めつつ、脳内のあらゆる引き出しから色も形もわからない"正解"を探していた。
そんな状況にありながらわたしは、私の人生があくまで最優先であることを自覚して、自分の中に確かに存在する人間味を思わずにはいられなかった。
生きていてほしいと無条件に願う気持ちと、苦しみを苦しみ抜くくらいなら死ぬことで解放されてもいいのではないかという元々の哲学が争い、結局決着はつかないまま朝を迎えた。
自分に対する期待値の高い人間が、理想を捨て自由に生きられる社会になりますよう.
あの人が、どこかで、明日からもまた生き続けてくれますよう.
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ずっと好きだったものが
いつのまにか
それほどでもない存在になっていたり
まるで興味のわかなかったものが
ある時突然
きらきらと輝いて見えだしたり
わたしは変わりつづけていくし
世の中も変わりつづけていくの
信じていたものが
音を立てて崩れ落ちていく瞬間
モノクロだった世界に
一点の色が差される瞬間
すべて目の当たりにしてきました
好きじゃないことを自覚したとき
どこかに取り残されたような気持ちになる
わたしの人生のあるひとときを
明るく照らしてくれて
ありがとうございました
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海の先を見つめながら
片手に煙草を燻らすあなた
煙の隙間からのぞくあなたの顔は
いつも何かを背負っている
表面をなぞる会話の中から
あなたの核の鼓動を感じる
それは今にも弾けて無になりそうな
そんな危ない気配がある
触れてはいけないあなたの核と
怖いもの見たさで満たされたわたし
あなたとわたしの間に渡る橋に名前はない
どんな橋とも同じでない
橋を渡れば全てが終わることを知っていて
それでも筋肉が肉体が魂が先へ先へと歩を進む
あなたのすべてを知りたくて
あなたのすべてを理解したくて
あなたのすべてが嫌いだった
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ろうそくに火をともす
部屋の中央で、かすかな、けれど確かな光が揺らめいている
光をきっかけに、周囲のものが朧げに浮かぶ
ゆらゆら ふわふわ
捉えることのできない光
どうして私は生きているんだろうと思う
どうして生きていかなければならないのだろう
どうしてここまで苦しくて悲しくて寂しくてやりきれないのに生きていかなくちゃならないのだろう
家族のことがだいすきで大切で愛していて
だからわたしはどうしても死ぬことができない
産んでくれたことも愛してくれたことも
育ててくれたこともすべて、すべて、ありがとう
そこにネガティヴな感情は全くない
ただ、個人の、わたしという人間、名前の付く前のただの人間であった私自身の問題として、ただただ生きていくことが困難でした
苦しくてわたし一人では抱えきれず、しかしこれはわたしひとりで抱えるしか他なく、かみさま、
テイクフリー人生
風化していく。
悲しみか、痛みか、後悔か、疑念か、怒りか、懐かしさか、温かさか、愛おしさか。
分からなかった感情に色が宿っていく。
爆発の後に小さな破片がそこかしこに散りばめられている。
ひとつ、ひとつ、手にしては涙し、手にしては涙し、大切なおもちゃを盗られた子どものように、大の大人が世間体を気にせず泣き喚いている。
世間体なんて気にしなくていい。
爆発。服は燃え、髪は焦げ、身体中が赤黒く焼けた。
あの瞬間の、あの時の感情。
最悪だと思っていたものの、それよりも下に更なる最悪があったこと。
大丈夫。
風化する。風化する。全てが薄れていく。
生きることの美しさを感じていたい。
寿命を全うすることの素晴らしさを伝えたい。
そして、生死を選ぶ権利を主張したい。
大丈夫。大丈夫だから、耐えて。
数週間、数ヶ月、数年。
まいにち、まいにち日を数えて。
いちにち、ふつか、みっか、よっか。
時間と共に、確実に、少しずつ、眼ではわからないミリ単位で、少しずつ、良い方向へ進んでいく。
信じるしかない。
愛したい記憶だけを掌の中で温めていて。
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人生のスタートというのは、母体に新たな命を宿した瞬間でも、産道を抜け身体が外気に触れた瞬間でも、物心のついた頃合いでもなく、自分という人間を受け入れられた瞬間なのだと思う。
人によっては生まれ持ったその瞬間から自分を受け入れられる人もいるのだろうし、死ぬその瞬間まで自分自身すらも受け入れられずに死んでゆく人もいるのだろう。
わたしは、自分を受け入れられずにいる。
わたしは結局わたしにしか関心がないのだろう、目の前に座り優しく微笑みかけてくれているわたしの大切な人たちのことを、わたしはわたし越しで見ることしかできないのだ。わたしは、何のフィルターも通さず、人を愛して、人を憎んで、人を考えていきたいのに。
どうだっていい人間が沢山いる。
どうでもいい、どうでもいい、ああ、自分が、どうしようもなく、下劣な人間に思えてくる。ひとの愚痴を話した自分が許せず、死んでしまえ、ひとの悪口に頷いた自分が許せず、殺してやりたい、わたしは最悪の人間なのに、わたしが人を判断してしまったこと、ゆるせない、ひとは鏡だ、価値観、堂々巡り、輪廻転生、正しさ、悪、優しさ、わたしには何も分からず、ただ、自分の心臓がこの世界で動き続けていることだけは感じられる。
朝がくる。
生き地獄無限列車編
鬼滅の刃は1話だけ見ました。
生き地獄。生き地獄。人生は生き地獄です。
わたしはわたしのことが醜くて仕方ありません。
人と対話すると相手を通して自分を客観視できてしまうから、人に会う予定が重なった時は自意識がわたしに刃を向けて今にも息の根を止めようとしてくる。わたしの死に対する畏怖の情は、それは、私自身への畏怖なのだと思う。わたしはわたしが恐いんです。ああ雨に打たれて死にたい。風に飛ばされて死にたい。熱帯の熱で火傷して死にたい。
不良でない人間があるだろうか。味気ない思い。金が欲しい。さもなくば、眠りながらの自然死!
戦争。日本の戦争は、ヤケクソだ。ヤケクソに巻き込まれて死ぬのは、いや。いっそ、ひとりで死にたいわい。
結局、自殺するよりほかしようがないのじゃないか。このように苦しんでも、ただ、自殺で終わるだけなのだ、と思ったら、声を放って泣いてしまった。
あなたたちは、僕の死を知ったら、きっとお泣きになるのでしょうが、しかし僕の生きている苦しみと、そうしてそのイヤな生から完全に解放される僕のよろこびを思ってみて下さったら、あなたたちのその悲しみは、次第に打ち消されて行く事と存じます。
そうなんだよ、太宰。
なんでわかるんだよ、なんでわたしの気持ちが、まるっきりそのままわかってしまうんだよ。
時代も性別も生まれも育ちも何もかも違うのに、どうしてわたしの気持ちがわかるんだ!
薬を飲み続けた。なにも効きやしない!と思いながらただ飲み続けた。
目が覚めたら、わたしは別の人間に生まれ変わっていた。生まれ変わり。輪廻天才。ホモ・サピエンスからホモ・サピエンスへ。
毎日、毎日、本気で、死のう、死ぬんだと考えていたわたしが、まるですべてフェアリーテイルだったかのよう、ただ呑気でのんびりしたゲラのわたしがわたしの身体を支配した。
死を意識しない人生なんて嘘だと思っていた。ファンタジーだと思っていた。現実に存在した。「死にたい」とこぼしたときにまあまあと慰めてくれた色々な人たちの、そちら側の世界を知った。
死にたくない世界は、どうしようもなく、つまらなかった。
生きている実感がなかった。こんなの人生と言えるのか。人が生きると書けるのか。?私にわからない。こんなの人生ではない。
薬を飲むのをやめたい、地獄の、地獄の世界に、もどりたい。
人間って所詮動物なのですよ。
動物園の動物をわたしたちは当たり前のように眺めるけれど、わたしたちだって檻の向こう側にいて然るべき存在なのですよ。
宇宙という観点からみれば、正しさなんてものは今のところ私たちの住む世界には存在しません。わたしたちが正しさだと思うものは、人間社会がつくりだした独自のローカルルールに過ぎません。全国各地の人間と大富豪をやる際にローカルルールを各々が自由に持ち寄り適宜発動したりなどしていたら、富豪など決まるはずがありません。ローカルルールだと言い張ればどんなルールだって適用できてしまうもの。いろんな人種が揃った時は、定番の、通常の、初期設定の、シンプルなルールを。それはただ宇宙が存在し、地球が存在し、わたしたちが生きているというそれだけのこと。それが、ルール。
恋や愛や友や家族や血や不倫や暴力や犯罪や支配や思惑や嫉妬や憎悪や欲望や憤りや怨恨やいじめも、わたしにはよく、わかりません。