記憶と記録

雑記、詩、遺書

いまさらのラブレター

何度も夢に出てくる人がいる。

わたしの憧れ。心地よい秋風のような人だった。

 

憧れだったから、ふつうの眼でその人を判断することができず、私にとってその人は実体のない概念や哲学のようなものの一つだった。

 

顔や声はほとんど覚えていないのに、あの人の纏っていた色や形やリズムはまるで今目の前にあるかのようにありありと思い出すことができる。

 

 

夢から覚めたとき、わたしはあの人のことが好きだったんだ、とやけに冷静に考えた。

 

あの人のそばにいたくて、あの人と同じ目線で言葉を交わしたくて、あの人に好きだと思われたかったのだ。どうして今になって気付くのだろう。

 

そう考え始めると、もう随分長いこと片想いをしているような気になってくる。ほかに恋人がいた時も、出会いを求めてふらふらしていた時も、寂しい夜をどうしようもないことで埋めていた時もずっと、あの人のことを好きでいたんだ。

 

あの人からすれば、人生の中で通り過ぎていくひとりの人間に過ぎないけれど、そんなことをどうでもいいと思えるくらいに、究極の愛だった。

 

 

元気にしているだろうか。

夢の中であの人は、行きつけの居酒屋の店主が作ってくれる焼き鳥を見つめながら、横に座ったわたしの存在をまるで無視して、店主との会話に花を咲かせていたし、素面とほろ酔の間くらいの僅かの酔いを漂わせて、押さずとも簡単に転げ落ちてしまうわたしに何のアプローチもしかけず、商店街をあてもなく歩いていた。

 

変わらずにいてほしい、と思った。